おともだち

仁科多江

『そっち出たら連絡して。駅まで迎えに行く』
 帰る頃、メッセージ通りに『出たよ』と返事をする。
『おけ。俺今風呂入ってるから、才に迎えに行かせる』
 数秒と経たずに返事があって苦笑いする。既読をつけるだけじゃ、もう一度メッセージが送られて来るだろうだから、返事はちゃんと送った。

 改札を出ると、車の前で腕組をして立っている男性が目に入った。才知だ。
「ただいま」
「うん」

 車の中は沈黙続きで、才知は喋ろうともしない。心地よい揺れにうとうとしてくるが、
「帰ったらすぐに風呂入って寝ろ」
 ぶっきらぼうに言われて「うーん」と曖昧な返事をした。

 リビングにはさっきメッセージを送って来た彰人の姿があった。
「お帰り。眠そうだな、ちょうど風呂空いてるから入ってこい」
「はい、ありがと」
 荷物の片付けもそこそこにお風呂へ向かおうとすると、階段を下りてくる音がした。

「あっかい、顔だな。酔ってんなら風呂はもうちょい後の方がよくね? どんだけ呑んだん、お前。ちょっと帰んの遅すぎだって」
「克己、説教は明日でいいって。多江、酔ってんなら風呂は後にするか? 」
 彰人に「大丈夫」と答える前には、「ん、水」と才知が水の入ったグラスを私に押し付けた。
「あり、がと」
 私がグラスの中の水を一気飲みすると空になったグラスはまた才知に引き取られた。私は「お風呂行くね」と半ば逃げるようにお風呂へと向かった。

 一つ、二つと足音が階段を上がっていく。私はほぉっと息を吐いた。お説教は単に延期されただけで、明日の朝には聞くことになる。三つの口から。門限はpm11時。今は11時半を少し回ったところ。

 ……私には、三人の兄がいる。長男の彰人、次男の克己。三男の才知。4兄妹、成人済み。全員実家暮らし。

 これが、私の日常だった。
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