おともだち
 駐車場に着くと車は日陰に停めた。途中で疲れたなら家まで歩かなくていいように車にしたけどやっぱり事前に行先を伝えたらよかったな。こういう会うまで秘密みたいな小さなサプライズも仁科さんにとっては疎ましいのかもしれない。

「動物園かぁ……久しぶりだな」
「そ。なーんか、行きたくなっちゃって。付き合って」
「わかった。動物園なんてすごい久しぶり」
「……ごめん、もったいぶったつもりは無かったんだけど。スニーカーっていっても足が疲れたら言って。そのために車で来たんだから」
「うん。そうさせてもらうね」

 無理はしないといった言い方にいくらかほっとする。

 来たからには楽しもう。結局、手探りで行くしかないんだ、男女のことなんて。そうだ、俺は嫌だと愛想をつかされる関係性までもいってない。媚びたら好きになってくれるわけでもないだろうしな。

 「いい季節だな」
 外の空気を肺一杯吸い込んで伸びをする、晴れてる。それだけで楽しむには十分だ。横には風変りではあるが、俺の好きな子。なんでだろうな、面倒なのに、出来るだけの事はしてみたいなんて。思えば、恋人をつくるのに苦労なんてしたことがない。めちゃくちゃ好きで告白するというより“ちょっといいな”の段階で言ってしまう。仁科さんに対してももちろんちょっといいなくらいで告白した(言った)。今は……、好きだけど、まだ引き返そうと思ったら引き返せるんじゃないか、やっぱりムキになってるだけなんじゃないか、そんな気がしないわけじゃない。

 仁科さんが自分の恋愛感に錯綜して、セフレなんて希望したように、俺もセフレになるくらいわかんなくなっちゃってんのかもしれないな。

 ほっておけない。この言葉が一番近いかもしれない。セフレを引き受けるのは俺じゃないとまずい、そう思う。
< 48 / 147 >

この作品をシェア

pagetop