おともだち
第4話

多江

 動物園はかなり久しぶりで、懐かしい気持ちになる。

 家族で来たんだったかな、学校の遠足かな……。一番最後に行ったのはどっちだっけ。そんなことを思いながら入り口でパンフレットを手に取った。

 私が楽しんでいるか気にしていたらどうしよう、一瞬過った不安を彼の言葉が払拭した。
 「そ。なーんか、行きたくなっちゃって。付き合って」

 わくわくした顔でに園内マップに目を通し、
「どこから行こうか」なんて言ってる。宮沢くんは自分が楽しみたくてここを選んだのかと思ったらいくらか気持ちが楽になった。私も楽しもう。純粋に。

 かと言って勝手気ままにすごすわけでもなく、ちょうどいい気遣い。これは、この人のスタンスだろうか、それとも今の関係性のなせる距離感なんだろうか。

 また胸が痛くなりそうで私は考えるのをやめた。楽しむことに目を向けよう。外の空気に気持ちよさそうに伸びをする宮沢くんの背中を見つめる。ふふ、何だかこんなデートは学生みたい。宮沢くんはこうなるまで私生活は謎で、特定の彼女をつくらなさそうで、割り切った関係の綺麗な女の人が何人かいそうで、つまり、セフレに抵抗がないような人だと思っていた。
 遊んでいそうだとか、節操がないとかチャラいとかではなくむしろ品もあるのにそう思うのはどうしてだろう。余裕なのかな。結局、それこそ俳優さんとかに向ける羨望なのかもしれないな。

 分析していたら不意に振り向かれ、不自然に目を逸らしてしまった。
「じゃ、行こうか。……時計回りで網羅していこう。まずはサル」
「サル……」

 左側、彼の指す方にサル山が見えた。土曜の動物園はほぼ家族連れ、それにカップルが混じる。私たちは……。ここに相応しくない関係では?
「ん」
 目を逸らしていた私は彼が発した声に視線を合わした。それから、差し出された手に視線を移す。
 
 
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