おともだち
 どう伝えよう。うっかり口に出しちゃわないように、ちゃんと話をしてる時に言おう。そう思うと変に緊張してきた。さっきのドキドキの勢いで言っちゃえば良かったのかな。でも、まだもう少しお酒飲んでから……。

「多江、何飲むよ。レモン? ミント? 」

 私がミント苦手なこと知っていてわざとミントなんて聞いてくる。

「もう、グループフルーツがいい」
「あ、さっき買ったな。せっかくだから生絞りしよ」

 栄司はそう言ってキッチンに戻って行った。

「え、いいよ。何か悪いし」
「いいって。俺半分食べる」

 すぐに立ってしまった栄司に申しわけない気持ちと寂しい気持ちだ。……レモンにしとけばよかった。
 そう思ったのが吹き飛んじゃうくらい栄司が絞ってくれたグレープフルーツは美味しかった。

「わ、おいしい」
「ん、そうだな。結構甘い」

 栄司はそう言って綺麗に皮がむかれたグレープフルーツの果肉を口に入れた。

「すごい。綺麗に剥けてる」
「うん。前に切り方調べたことがあってそれ覚えてただけ」
「へえ」
「ん。一口」

 栄司が私のグラスに手を伸ばし、私の手ごとグラスを自分の口に運ぶ。私のグラスに口付ける栄司がはっきり見える。そのまま上目遣いで
「うま」
 と笑う。カッと顔に血が巡る。

「もう、飲みにくいでしょう」
 なんて誤魔化してグラスを取り上げたけど、ドキドキしすぎて苦しい。距離が、私の鼓動を栄司に伝わってしまいそうで落ち着かない。

 栄司がローテーブルの自分のグラスに手を伸ばす。私がほんのちょっとでも右を向いてしまえばうっかりキスでもしてしまいそうな距離……。私の心臓、もつのかな、これ。
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