おともだち
「何か映画見る? それとも音楽聞きながら話でもする? 」
「じゃあ、話を……」
「おー……、何か話したい事でもあんの」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど」
「そっか。楽しいよな、だらだら喋んの」
「うん」

 ああ、ばか。話したい事あるって言えばよかったのに。でも、タイミング的にまだ早いし。お酒、もう少しお酒飲んでから……。そんな重苦しくなく、“好きになっちゃった”くらいの感じで。……あ、でも、待って。どうせなら()()の時に言ったらよくない?好きになっちゃったから関係をセフレから恋人に変えたいって。付き合って……って、私、栄司と付き合いたいの?今まで上手くいかなかったのに、好きな人と恋人になって大丈夫かな。そもそも栄司が恋人になってくれるかわからない。セフレを更新してくれるかもわからないのに。セフレ……。そう、セックスしないのも何でって。多分、もう、この期間が終わるまでしないんじゃないかなって気すらして……。頭がぐるぐるしてきてどうしていいかわからない。どうしたいのかも。えっと、私、栄司が好きで、だから。だから?

「何だよ。黙りこくって。おーい」

 栄司が私の顔の前で手を振っている。

「あ、ごめん、考え事」
「ほう、俺の横で考え事とは? 」

 栄司が片眉を上げてピクピクさせるといたずらな笑みを浮かべて私に襲い掛かって来た。

「吐け。吐けよ! 」

 そう言ってくすぐるから、私は身を捩って悶えた。

「ちょ、ちょっと、栄司、あははは、くすぐったい。やだぁ、苦しいよ。お酒。お酒がこぼれるから! 」

 苦しくて出た涙を拭きながら栄司に抗議する。

「こんなとこで暴れたらぐちゃぐちゃになるでしょ! いい年した大人が暴れてどうすんの」
「暴れてんの、多江だけじゃん」
「そうだけど。くすぐったいんだもん」
「ん、じゃあ、話そうか」

 にこり笑う栄司からスッと目を逸らした。

 
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