おともだち
「多江、会社で会った時変な気がして……。何かあった? 」

 気づかれていたことにぐっと言葉が詰まる。えっと、栄司のこと意識しちゃって……って言え。言っちゃえばいい。バッと栄司を見ると距離が近すぎて。もう一度視線を逸らした。

「何だよ」
「お酒、お代わりする」
「ああ、うん。ちょ、ちょい濃くねぇ? 喉渇いてんだったら割ったら? 炭酸あるし」
「お酒。お酒の力を借りようと思って」

 そう言うと栄司がきょとんとする。
「借りなきゃ言えない事ってなんだよ。またくすぐるぞ」

 栄司が手をわきゃわきゃするから吹き出す。

「ふふふ、だって。栄司、こうやってスキンシップはするけど、結局それ以上はしないでしょ? もうすぐ更新期間くるけど、何もせず終わりそうだなって。私たち、セフレなのに」

 栄司の手がピタリと止まって、私もハッとする。

 ちが、言いたいのはこれじゃなくて、“セックスしないの? ”ってことじゃなくて。私の気持ち――好きだって言おうと思ってたのに。

 居心地の悪い沈黙に、俯いた。どんな顔していいかわからないし、まだ借りるはずのお酒のチカラもテーブルに置きっぱなし。
 そーっと顔を上げるとフリーズしてた栄司の顔がふっと緩んだ。

「多江は、()()()の? 」

 息がかかるくらいの距離で聞かれると、今度は私がフリーズしてしまう。心臓がバクバクして、顔に熱が集まる。また俯きかけた顔を栄司がそうはさせまいと顎に手を添え自分の方へ向けさせる。
 まただ。栄司を前にすると胸が甘く疼いて頭が良く働かない。触れたい衝動にかられてしまう。

「わか、んない」

 やっとのことでそう言うと近い距離の栄司が更にゆっくり近づいてくる。近すぎてぼやける距離にぎゅっと目を閉じた。
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