おともだち
 覚悟と期待をした感触ではなく、目を開けた。目の前には栄司の胸があって、身体がふわりと包まれていた。驚いていると栄司の腕に力がこもり、ぎゅ、ぎゅっと2度ほど強く抱きしめられ、栄司の顔が視界にもどってきた。

 ……ハグ。

「どう? 」
 栄司がにっこり笑って感想を求めた。

「どう、とは。えっと温かかった」
「んふ、いや。暑いだろ、もう。クーラーつけてるけど」
「あ、そう。そうね、暑……いか」

 
 今のハグがどうだったかと思い出してみる。びっくりしすぎて、何が何だかだけど……。お互い薄いTシャツ1枚だから栄司の腕とか胸とか、筋肉の弾力とか体温が生々しく伝わって来て……。それより抱きしめられると思ってなくて、てっきりキスだと……そう!キスだと思って勘違いを!した!
 顔を上げると栄司が私が()()を話すのを待って微笑んでいる。無意識に栄司の唇を見てしまってカッと顔が熱くなった。勘違いして恥ずかしい。

「そんな悩まなくても。嫌じゃなかったかってこと」
「嫌じゃないよ! もちろん」
「うん。そうだよな」

 栄司はそう言って私の腕を引き寄せもう一度抱きしめた。栄司の体温が伝わって来て。やっぱり温かい、と思ってしまう。人の体温って心地がいい。目を閉じ、私も栄司の背中に腕を回そうとした時、栄司の身体は離れて行った。

 追いかける勇気はないけど、体温を失って物足りない気持ちになる。

「多江が求めてるのってこういうことだと思う」
「……こう? 」

 どういう事だろう。

「癒されるだろ、人の体温って。親しければ同性ともハグしても心地は良いだろうけど、異性ってまた違って満たされるものがある。もちろんその異性にも程度があって触れられて嫌じゃない相手。多江が求める()()()って要はセックスまでいかなくてよくて()()くらいの適度ないちゃいちゃじゃない? 」

 異性であることと、その程度。私は栄司の言葉を頭の中でかみ砕いた。
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