おともだち

多江

 朝――会社で栄司とばったり会った。周りに人がいないのをいいことに栄司が顔を寄せてくる。もう、と形ばかりの抵抗をみせて笑う。こんなやり取りさえドキドキしてしまう。

「今日さ、昼休憩一緒に行かない? たまたま装って。途中で誰かに会えばその誰かも混ぜて、二人なら二人で。ど? 」
「うん。じゃあ、エレベーターじゃなくて階段で降りようかな。休憩入る時にメッセージするね」
「……えー、あー。うん」

 栄司の返事が煮え切らない感じで首を傾げる。
 『メッセージ、待ってるね』
 別れてすぐ送られて来たメッセージにハッとなる。あ、わざわざ下りる時にメッセージに送るとか、二人で行きたいみたいじゃん。みたいっていうか、二人で行きたいと思ってしまった。栄司はそれに気づいたみたい。ああ、もう。熱くなった顔を押さえながらフロアに入ると、辰巳主任と目が合った。

「あれ、仁科さん顔赤いけど」
「あ、大丈夫です。ちょっと急いだから暑くて」
「ああ。じゃあ、ここおいで。涼しいから」
 辰巳主任がクーラーの風が当たる位置を勧めてくれた。せっかくなので、しばらくそこで顔を冷やしてから席に着いた。

「ほんと、最近の暑さって朝から容赦ないよねぇ」
「ですです」

 ああ、昼休み、誰も会わなければいいのに。栄司は時々部署の女性たちとランチしていて、ちょっとうらやましかったんだよね。何だか最近、栄司が会社の女性と気軽に話してるのが目につく。やっぱり、元々はあんまり女性たちと気軽に話しているようなタイプでは無かったと思うんだけど。他の女性たちも結構なイメージを持ってたよね?すごい外見で判断されていたし。私も、してたし。

 それとも、私が知らないだけで、仲良い人とは食事に行ったりしてたのだろうか。ああ、いちいち栄司の言動を気にしてしまう。
 
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