おともだち

栄司

 気さくさを心掛けたことで女子社員から普通に話しかけられるようになったはいいが、ランチは多江と二人で行きたかったなと残念に思っていた。一生懸命話してくれる小柴さんは確か2年目かそのくらいの社員だったか……大した情報も知らないけど、印象はそう悪くはない。けど、俺の意識は後ろの多江に向けられていた。……ちゃんと誘えばよかったな、なんて。


 ふと、反対側から来る集団を避けるのに小柴さんの隣から後ろに一歩下がるとすぐ後ろに多江がいた。集団が通り過ぎると、一瞬出遅れた俺と多江に代わって三上さんが前へ進んだ。そのおかげで小柴さんと三上さんが横並びになり、必然的に俺と多江が横に並ぶことになった。不可抗力だ。ラッキーだけど。

 多江の方を見て何か話そうと口を開いた時だった。

 すれ違った男が振り返り
「仁科。仁科じゃない? 」

 そう多江に声をかけた。多江がその言葉に振り向く。

「やっぱそうだ。仁科多江。久しぶり」

 多江は目の前の男を認識するのに数秒。ハッと息をのんだ。

「加賀美くん……だよね! 」

 ……加賀美。加賀美……だと?
 聞き覚えのある名前にバッとその男の顔を確認する。
 
「加賀美じゃん」
 認識と同時に俺も目の前の男をそう呼んでいた。名前を呼び捨てにされ男の視線が多江から俺に移る。俺たちはしばらくそれぞれがそれぞれの顔を確認するのに視線を往復させた。

 加賀美だ。俺の高校時代の同級生の加賀美。そして、多江が大学時代にずっと片思いしていた、かつ、今でも引きずってんじゃないかって俺が思っていた加賀美。俺の知ってる加賀美より大人になっていて、明るい色のスーツがよく似合っていた。

 状況を一瞬で理解して血の気が引く。加賀美を認識した多江の声がわずかに弾んでいた気がしたから。
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