おともだち
「宮沢さんもモテてたでしょう。ぶっちゃけ宮沢さんの方がかっこいいですけどね」
「……そらどうも」

 いつの間にかまた俺の隣は小柴さんがいて、ちらり多江を見るとぼんやりとしていた。
 何で今、加賀美なんだよ……。

 
 いてもたってもいられなくて、小柴さんと三上さんが自分の部署に戻ると一呼吸おいて多江を追いかけた。

「仁科さん」

 多江は驚いて目を見開いた。誰もいないことをいいことにいつものように呼ぶ。

「多江、今日空いてる? 」
「今日? 栄司予定があるんじゃなかったの」
 多江は怪訝な顔だ。
 
「うん。だから、予定(これ)。ランチ、二人で行けなかったからさ」

 言い訳を付け足す情けなさ。幸い多江は頷いてくれた。

「うん。いいよ。行こう」

 “俺が足りないから”
 そう言って誘ったら多江はどんな顔をするだろうか……。もやもやとすっきりしない気分だ。不安……ってことだ。加賀美が多江の前に現れたこと。わざわざ加賀美も多江を誘ったってこと。推測するに彼女でもいれば女性を食事に誘ったりしないだろう。最悪なことに、多江も今は()()()()()()。好意と好意が見えた気がして……。


 あー……失敗したな。衝動的に今夜多江を誘ってしまったけど、今夜多江は加賀美と会わないんだから、加賀美に誘われた日に阻止すればよかったな。たった2回しかない俺からの誘いという手札をここに来て使ってしまった。

 だけど、今日多江に会わずに不安に打ち勝てるだろうか。きっと、加賀美からはすぐに連絡が来るだろうと思う。その時多江が何を思い、どうするかのを知りたかった。

 どこかで加賀美と会わせた方が多江の恋愛感情をまっとうに戻せるんじゃないかって思う。でも、そうはさせたくなかった。
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