おともだち
 仕事が終わると職場から少し離れた場所で多江と待ち合わせをした。

「お疲れ」
「うん。お疲れ様。今日はこの後どうするの? 」
「……家。って言いたいとこだけど、平日だしな。何か食べて帰ろうか」
「うん。そうだね」

 家、って言いたいけどな。今日は部屋で二人になって何もしない自信がない。ふう、と無意識にため息を吐いていたらしい。多江が心配そうに俺を見上げてくる。

「疲れてるの? ため息なんて」
「ああ、悪い。今日は何か仕事びみょーだった。不甲斐ないなって。……癒してもらうか、多江に」
「ええ、大丈夫なの? 」
「大丈夫だって。リカバリー出来たし。そんな日もあるじゃん。さ、何食べる? 」

 ちょっと心ここにあらずでミスったなんて言えるわけもなく。ちゃんと就業時間内に終わらせてきたんだからいいだろ。個室の和食屋に入り、お互い一杯だけと言いあって酒も頼んだ。
 この日は心なしか、多江もいつもより元気がないように見えた。座席はわざと向かいではなく多江の横に座った。

「そう言えば今日の昼……」
 俺が口を開くと多江がビクリと身体を跳ねさせた。

「何だよ、ビクっとして。加賀美。多江とも面識があるなんて驚いたなってハナシ」
 加賀美の話題になるとパッと顔が明るくなった。
「あ、ああ。加賀美くん! びっくりしたよね。栄司は何で知ってるの? 」
「……高校が一緒」
「そうなんだ! すっごい偶然。私は大学が一緒で、同じ学科だったから見かける機会も多くて。友達が加賀美くんのグループと仲良かったから私も話すようになって、って感じだったな」

 聞いてもないのに饒舌に話しだす多江に、以前大学時代に『ずっと片思いしてた男』が加賀美だって話したことは忘れているらしかった。それで再会を嬉しそうに話す多江を複雑な気持ちで見つめていた。
< 90 / 147 >

この作品をシェア

pagetop