桜いろの恋
尚樹が躊躇いながらも、ゆっくりと私の頬に触れた。尚樹のあったかい掌が私の冷たい頬から何度も涙をそっと拭ってくれる。


「美夜……泣かせてばっかりでごめん。何にもしてやれなくてごめん。いつも一緒に居てやれなかったな。ごめんな」

私は首を左右に振るだけで何も言えない。おやつを買ってもらえなくて泣きじゃくる子供とおんなじだ。尚樹が欲しいのに手が届かなくて、ただ涙を流すことしかできない幼稚な自分が嫌になる。

いつか訪れると分かっていた最後は笑って終わると決めていたのに、私は最後までズルくて弱い。こんな風に泣いたら尚樹が困ることなんて十分すぎるほど分かっているのに。

尚樹がゆっくり私を両腕で抱きしめた。体温の高い尚樹が、冷たい私の身体を、まるごと、じんわり温めていく。

「冷たいな」

「尚樹の……せい」

「そうだな……美夜……俺達、次はもっと早くに出会えるといいな」

尚樹にしては珍しく歯の浮いたような台詞だった。

「……次なんて……そんな不確かなこと言わないでよ」

次じゃなくて、今尚樹が欲しいから。
今、尚樹とずっと一緒に居たいから。
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