冷淡男子の上條君は全振り初カノにご執心

2月25日、午前9時10分。

「遅くなって、ごめんねっ!!」
「おはよ、走って来なくてもよかったのに」
「ほんっっっとっ、ごめんなさいっ」
「気にしてないよ。ってか、来てくれるだけで嬉しいから」

待ち合わせの人形町駅の改札前で、涙目になりながらぺこぺこと頭を下げる。
上條君と付き合うようになって初めてのデートなのに、よりによって部屋の壁掛け時計が止まっていて。
気付いた時には既に遅し。
慌てて準備をしたけれど、10分の遅刻をしてしまった。

「髪」
「……?」
「久しぶりに見た、下ろしてるの」
「あ、……ん。前に言ったでしょ、電車に乗る時はしばっておけって」
「………そんなこと、言ったかも」
「結ったり解いたりいちいちするの面倒だし、しばり癖ついてるのも恥ずかしいし」
「……ごめん。あん時はそこまで考えてなかった」
「うん。でも、本当のことだし。沢山の人が乗る電車内では、纏めてた方が無難だしね」

走って来たから少し乱れた髪を手櫛で直していると、スーッと彼の指先が髪を梳く。

「俺、小森の髪、好き」
「っ……」

普段は優しく撫でられることしかない髪が、今日は特別仕様になってるみたい。
ちょっと地肌が擽ったく感じる。

「行こっか」
「うん」

目の前に差し出された大きな手に、照れながら自分の手をちょこんと乗せると、優しく指が絡め取られた。

ブラックデニムにセーター、グレーのロングコート姿の彼は、制服の時より大人っぽくて。
隣りを歩くだけでドキドキするのに、繋がれた手から感じる手の温かさにますます鼓動が早まってしまう。

「今日の小森、めっちゃかわいいっ」
「っ……」

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