結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
強く言い含められ、彼はそれを承知した。
父のこの言葉は、彼とその奥さん、そして生まれたばかりの子供を思ってだった。

私の家にやってきた彼は、家にすら上がらず玄関で床に頭を擦りつけて、土下座をした。
ごめんなさい、許してください、申し訳ありません。
ひたすら続く謝罪の言葉を、やるせない気持ちで聞いていた。
刺した彼が悪いが、それでも責められる状況ではない。

『お父さんはそういう人だもの。
諦めましょう?』

泣き笑いの母の顔は、今でも忘れられない。
父から一方的に離婚届が送られてきたときも、母は同じように言って、判を押した。

幸い、というのは嫌だが、あのとき部屋にいたのはアイツと彼と父の三人だけで、しかもアイツは刺されたときのショックで記憶が混乱しており、刺したのは父かと聞かれてそうだと認め、父の思惑どおりになった。

「じゃあ、純華のお父さんはその彼を庇っただけなのか」

そうだと、黙って頷く。

「父の意思を尊重して、誰にも話してない。
知ってるのは私たち三人だけと、紘希もだね」

父がそうしたいと願った。
だから、私たち三人は、真実を誰にも話さなかった。

「でも、それで本当にいいのか」

じっと紘希が私を見つめる。
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