結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
そんな彼の口からさらりと〝家政婦〟なんて出てきて、やはり私とは住む世界の違う人なのだと実感した。

「なに変な顔してるんだよ。
料理はできるぞ、一応。
でも、忙しいから家政婦さんに作り置きをお願いしているだけで」

私の反応が不満なのか、不機嫌そうに彼はご飯を口に運んだ。

「あ、いや、家政婦さんが狡いとか思ってるわけじゃないよ」

慌てて笑って取り繕う。

「それに私の朝ごはん、いつもシリアルだけだしさ。
それに比べたらお味噌汁作って鮭焼くだけでも偉いよ」

「やった、純華に褒められた」

機嫌は直ったのか、嬉しそうに口元を緩ませて矢崎くんはお味噌汁を一口飲んだ。
そういう素直で純粋なところ、もうすっかり拗れてしまった私から見れば凄く眩しかった。

「明日の土曜は仕事だっけ?」

「そう」

食事をしながらさりげなく矢崎くんが聞いてくる。

「日曜は?」

「場合によっては仕事」

ママさん社員の仕事のフォローをしている私は実質、ふたり分の仕事を抱えている状態だ。
平日だけで片付かない仕事は土日にやるしかない。

「……まだ改善しないんだな」

眼鏡の下で深刻そうに矢崎くんの眉が寄る。

「そうだね」

それになんでもないように答え、鮭を解す。
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