結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
「会長とか身内にバレるといろいろ面倒だからさ。
今抱えてる仕事が上手くいったらうるさい連中も黙らせられるから、ちょっと待ってくれ」

さらに彼は、片手で私を拝んできた。

「ああ、うん。
わかったよ」

そうか、矢崎くんも後継者としていろいろ事情があるんだ。
鏑木社長みたいに後継ぎを公言して憚らない人もいるもんね。
その理由にだけは納得した。

一緒に並んで駅までの道を歩く。

「引っ越しは追い追いするけど、とりあえず今日から俺んちに住めよ」

「ええーっ」

つい、口から不満が漏れる。
だって私はまだ、離婚を諦めていないのだ。

「ええーっ、じゃない。
終わったら純華んち行って、荷物持って俺んち。
わかったな?」

そんなこと言われたって、承知できるはずがない。
なのに。

「わかったな」

私の前で振り返り、矢崎くんが指先を突きつけてくる。
眼鏡の奥の目は真剣で、私に拒否を許さなかった。

「う、うん」

おかげでつい、頷いてしまった。

仕事はいつもどおり……ではなく、ママさん社員の加古川(かこがわ)さんから、子供の調子が悪いので休むと連絡が入っていた。
まあ、それもいつもどおりといえばいつもどおりだけれど。

仕事の合間を縫って資料を漁り、昨日の「瑞木係長は子供がいないからわからないでしょうけど」案件の解決に乗り出す。
< 26 / 193 >

この作品をシェア

pagetop