結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
「育児中の社員がいる部署から話集めてるけどさ。
やっぱそういう、やりどころのない不満が大なり小なりあるみたいなんだ。
子育て支援も大事だけど、それを支える人間のフォローがおろそかになってたら、本末転倒だなって気づいた」

なんでもないように話しながら矢崎くんはカレーを食べている。

「凄いね、矢崎くんは」

私は自分の仕事のキャパオーバーが解消できればそれでいいとしか考えていなかった。
でも矢崎くんは私の問題からそれだけじゃなく、全体を見て社員全部によくなるように考えている。
こんな彼はきっと、よい経営者になるだろう。

「矢崎くんが社長になったら、すっごく働きやすい会社になりそうだね」

「え、俺、褒められてる?」

うんうんと力一杯頷いた。

「やった、純華に褒められた」

ふにゃんと締まらない顔で嬉しそうに彼が笑う。
それが、私も嬉しかった。
矢崎くんが早く、この会社の経営者になればいいと思う。
でも、そうなれば確実に私は彼の足を引っ張る存在になる。
だったら、ずっと後を継がないでほしい。
相反する、ふたつの心。
なにが彼にとって幸せなのか、わかっているのに。

「今日、終わったら焼き肉行かない?」

時間に余裕があるのか、いったん食器を下げたあと、今度はコーヒーをふたつ持って矢崎くんは私の前に座った。
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