結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
なんか空気が悪くなって、食事が終わって速攻で席を立つ。
しかし私に一万円札を渡して会計に向かわせ、矢崎くんは後ろの席へと行った。
なにをするのか心配で、会計をしながらチラチラと店の奥へ視線を送る。

「結婚詐欺じゃなく俺たち、正真正銘夫婦なんですよね」

テーブルに手をつき、彼が彼女たちを冷たい目で見下ろす。

「憶測で適当なこと言ってると、名誉毀損で訴えますよ」

にっこりと綺麗に口角をつり上げてゆっくりと手を離し、矢崎くんがこちらに向かってくる。
彼女たちだけじゃなく、店全体が凍りついていた。

「あっ」

お冷やを注いでいる最中だった店員が溢れているのに気づき、声を上げる。
それで一気に喧噪が戻ってきた。

「いこ、純華」

私の手を掴み、矢崎くんは店を出た。

「もしかして、怒ってた?」

やっぱり、詐欺師呼ばわりされたのが嫌だったんだろうか。
なんて思ったものの。

「当たり前だろ。
俺の可愛い奥さんを結婚詐欺の被害に遭ってる女とか馬鹿にされて、許せるかっていうの」

ぎゅっと私の手を握る彼の手に力が入る。
そうか、矢崎くんは自分だって馬鹿にされていたのに、私が馬鹿にされたことに怒ってくれるんだ。
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