結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
というか、彼女たちの自分に対する評価は当たり前で、私は私自身が馬鹿にされているとすら感じていなかった。

「ありがと、矢崎くん」

甘えるように肩を軽くぶつける。

「お、俺は別に」

照れたように彼が人差し指でぽりぽりと頬を掻く。
こんな素敵な旦那様で、本当によかった。

「それで今から、どうしようか」

歩きながら矢崎くんが聞いてくる。
結局、なにも決めないまま出てきてしまった。

「んー。
服、見に行きたい」

「了解」

彼が軽い調子で返事をする。
やはり、服くらい可愛くしたい。
そうすれば少しくらい、あんなことを言われないでいい……はず。

「ここ、入っていい?」

「いいよー」

適当に見えてきたファッションビルに入る。
しかし、いつもファストのお店でしか買わない私は、どこに行っていいのかわからなかった。

「……もしかして、さ」

「うん」

店を探すフリをして案内板の前に立ち尽くす私に、矢崎くんが声をかけてくる。

「俺のために無理に服を買おうとしてる?」

「あー……。
無理は、してない」

……矢崎くんのためはそうなんだけれど。

「ふぅん」

興味なさそうに言い、彼も案内板に視線を落とす。

「じゃあ、さ」

「うん」

「俺が服、選んでも、いい?」

「あー……。
いい」
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