結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
おかげで背中が仰け反った。

「まだなんか言うなら、その口塞ぐぞ?
てか、塞ぐ」

言うが早いか彼の唇が重なる。
しかも間抜けにも僅かに開いたままだった、私の唇からぬるりと侵入してきた。
後ろに下がって離れようとするが、背中に回った手がそれを阻む。
さらに後頭部に回された手にしっかりホールドされてしまった。

……店員さんが見てるんですけど!

私の心の叫びが彼に聞こえるはずもなく、こんなところなのにがっつり貪ってくる。
パニックになりながらちらりと見ると、店員はそっと部屋を出ていくところだった。

「……んっ、……んんっ」

最初は逃げ回っていたものの、矢崎くんの熱を移されてそのうち瞼が落ちる。
それを見計らっていたかのように、彼は離れた。

「やっと静かになったか」

自身が濡らした私の唇を、彼の親指が拭う。

「……静かになったか、って」

矢崎くんを抗議の目で睨みあげたものの。

「まだなんか言うなら、またキスするぞ」

真顔で彼の顔が迫ってきて、黙った。

「失礼します」

口紅を引き直した頃、店員が戻ってきた。

「お客様のイメージからこちらもよろしいかと思いまして、ご用意いたしました」

なんでもない顔をして彼が、さらに数点指環を並べてくる。
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