結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
「わ、わかる……ケド」

「それなりの地位にいる人間は、それなりのものを身につけなきゃいけないの」

言い含めるように彼が言ってくる。

「わかる、ケド。
でも、矢崎くんは今、ただの一般社員じゃない」

再び彼の口からため息が落ち、怒られるのかと身がまえた。

「この指環が会社でも着けられるようになる頃には、俺はただの一般社員じゃなくなってる。
わかるか?」

その言葉になにも答えられなくなって俯いた。
今の仕事が上手くいき、次期後継者として認められたら私を両親と祖父母に紹介すると矢崎くんは言っていた。
それはすなわち、この関係の終わるときだ。
ならば、着ける機会のない指環をわざわざ買わなくていい。
しかし、それを彼に伝えるわけにはいかない。

「……わかる、ケド」

私から出た声は、暗く沈んでいた。
私だって本当は、彼との結婚指環が欲しい。
でも、無駄なものはなるべく買わせたくないし、……それに。
想い出になるものもできるだけ残したくない。

「また、純華の言えない事情か」

背後に回った手が、背中をあやすようにぽんぽんと軽く叩く。
黙って頷いたら、頭上でため息の音がした。

「なら、聞かない」

きゅっと一度、強く抱き締めたあと、彼が私を離す。
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