恋人は謎の冒険者
「その前に」

フェルはマリベルに向き直って、腰に付けたポーチに手を突っ込んだ。
そこからフェルは冒険者のカードと剣、それからペンダントと取り出した。

「これは?」
「俺が駆けつけたとき、既に一人亡くなっていた。それはその遺品だ」
「……!」

フェルの言葉にその場の空気が凍りつき、皆が息を呑んだ。

「これ、ダリルのよ。亡くなったのってダリルなの!」

マリベルも彼を知っていた。農家の次男で、家を継ぐのは兄だが家の助けになればと冒険者をして仕送りをしていた。
ペンダントは彼の安全を祈願した母親が持たせてくれたのだと、受付で言っていた。

「遺体は殆ど食べられていたし、さっきの彼を助けないといけなかったから、置いてきた。一応他の獣には荒らされないよう土を被せてきた。俺がもう少し早く駆けつけていたら、助けられたかも知れないが」

すまないと言うフェルを、誰も責めない。責めるどころか、バーツを救助しダリルの遺体を埋め遺品を持ち帰り、よくここまでしてくれたと。誰もが思っていた。

「それで、よくベアドウルフやウルフキングから逃げてきたな。しかもバーツを抱えて」

ギルド長がそう言うと、フェルは不思議そうな顔をした。

「ウルフキングがいたのなら逃げるのは恥ずかしいことじゃない」
「逃げたりしていない。全部倒した」

一瞬、その場にいた全員が自分の耳を疑った。

「逃げ…てない、全部、倒した?」

ギルド長が彼の言葉を繰り返した。

「そうだ」

頷くと、フェルは再びマジックポーチに手を入れて、そこから何体ものベアドウルフと、それよりひと回り大きくて鋼鉄のように硬い毛に覆われたウルフキングの遺体を取り出した。
その中には一角モグラの角十本と毛皮を入っていた。

「こっちは依頼を受けた分。依頼主からの達成の確認ももらっている」

フェルは自分が受けた依頼もこなし、さらにバーツさんたちを助け、ベアドウルフやウルフキングまで倒し、ダルクを埋葬までしたのだった。
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