せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
 そろそろ晩餐の時間になるため、私は一度クラウス様の部屋へ向かった。晩餐は寮生用の食堂で食べるか、決められたメニューの中から選びそれを部屋で食べるかが基本である。
 クラウス様、今日は長い時間外出していたようだし、どこかで食べてきたのかも。
 そう思って、一応晩餐は必要かどうかを確認することにした。
 さっき学園に戻って来ていたし、さすがに部屋にいるとは思うけれど――これで姿がいなかったら、マリー様の部屋にいるって考えちゃうわ。
 そう思うと、部屋の扉を開ける前にやたらと鼓動が早まった。ノックをして、ドアノブに手をかける。
「クラウス様、失礼いたし――」
「ユリアーナ!」
 ます、と言い終わる前に、勢いよく向こう側から扉が開いた。
 ……よかった。ちゃんと部屋に帰ってたのね。
「帰るのが遅れてごめん。戻ったらいないから部屋にも行ったんだけど……どこに行ってたんだ?」
「クラーラの部屋です」
「……ああ、前言っていた、仲良くなったマリーの侍女か」
 クラウス様の表情が、焦っていた様子から安堵へと変わる。
「そう言うクラウス様は、どこに行ってらしたのですか?」
 既にコンラート様から答えは聞いているが、わざと知らないふりをして聞いてみた。
「え? 俺は突然用事が入って、アトリアの街に出てたんだ。女子生徒にユリアーナにその旨を伝言してほしいって頼んでたんだけど、聞いてなかったか?」
 伝言? そんなことは知らない。だって、誰も私に声をかけてこなかった。
「いえ。なにも……」
「……そうか。ちゃんと伝わってなかったのか。ごめん」
 クラウス様は額を押さえて、小さなため息を吐く。嘘をついているようには見えない。きっと、伝達ミスが起きてしまったのだろう。
「それで、街には誰と?」
「えっ?」
 私が聞くと、クラウス様の声が微かに上ずった。
 クラウス様は少しばつの悪そうな顔をしたあと、口を開く。
「マリーと行ってきた。でも、変な意味はない」
「そうですか。でも、ずいぶん楽しそうに話してましたよね」
「! 見ていたのか?」
「ええ。門で待っていたらあまりにふたりが楽しそうにしていらしたので、空気を読んでお先に退散させてもらいました」
 自分では普通に言ったつもりなのに、どこか棘のあるような言い方をしてしまった。そしてその棘に、クラウス様も気づいたようだ。
「……ユリアーナ、怒ってる?」
「いえ、べつに」
 私はぷいっと顔を逸らす。
 こんなの、怒っていると言っているようなものだ。私、なにしてるんだろう!?
「そうかそうか。ユリアーナじゃ、俺がマリーと出かけたことに嫉妬してくれたんだな」
「だから、違うって言ってるじゃないですか!」
「そんな可愛い反応で否定されても、説得力がない」
 クラウス様はくつくつと笑って、嬉しそうにしている。
 私はあんなに心配したのに、ひとりで楽しそうに……。なんだか腑に落ちない。
「俺がいないと、退屈だった?」
 私の頬に優しく触れて、強制的に自分のほうへ向かせると、クラウス様はにやりと口角を上げる。
「……いいえ? コンラート様が、私の相手をしてくれましたから。ちっとも退屈じゃありませんでした」
 意地悪をしてくるクラウス様が望む言葉なんて、絶対言ってあげないんだから。
「……コンラート? なんでコンラートと一緒にいたんだ?」
 一気にクラウス様の顔色が変わる。
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