せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
「幸せのメッセージっていうのはなんだ?」
 クラウス様が問うと、ティムが率先して答えてくれる。
「ボクらは初めてここへ来た人に、アトリアにいる間、幸せになるための助言をしてあげることができるんだ」
「きちんとひとりひとりを見極めて、その人に合った助言を送る――言葉のギフトみたいなものよ!」
 ティモが補足してくれたことで、幸せのメッセージがなにか理解することができた。
 言葉のギフト……素敵な響きだわ。
「キミたちの名前は?」
「俺はクラウスで、彼女はユリアーナ」
 ティモの質問に、クラウス様が答える。
「それじゃあ、ティモはクラウスに助言を。ボクはユリアーナに合う言葉を探すよ!」
「りょーかい!」
 そう言い合うと、ふたりはそれぞれ言葉のギフトを捧げる相手をじっくり観察し始めた。
 ティムが肩に乗って来て、まんまるの瞳で私をじーっと見つめる。それは私の瞳を通じて、心の中を覗かれているかのようだった。
「ユリアーナ、キミは素直になることが、幸せへの道だよ!」
「……素直に?」
「うん! だからボクが君に贈る言葉は、〝素直になってみて〟ってこと!」
 ありきたりな言葉だが、それが私の幸せへの道……。ティモは私にウインクを贈ると、肩から離れてまた空中を飛び回る。
「ワタシからクラウスへ贈る言葉は、ずばり、想いを貫くこと! アナタはそのまんま突き進めば幸せを掴めるわ」
「……本当か?」
「ええ。ただ、一瞬でもブレてしまえば――望んでいる幸せはすり抜けていっちゃうかも……」
「ふっ。それなら心配いらない。俺は絶対にブレないからな」
「やだっ! クラウスったらかっこいい!」
 自信満々に言い放つクラウス様を見て、ティモの目がハートになっている。飛び回るたびに待っていた光も、心なしかハートに変わっているように見えた。
「ふたりがアトリアで楽しい日々を送れるよう、ボクたちは祈っているからね!」
「森を抜ければ、すぐに街が見えるわ! 楽しんでってね!」
 ティムとティモは互いの顔をくっつけてそう言うと、また弾けるようなまばゆさを放って姿を消した。
「あ、ありがとう! ふたりとも!」
 慌ててお礼を言うも、森はしーんとしたまま。だけど、きっと聞こえているはずだ。なんの根拠もないけれど、私はそう思った。
「……なんだか、幸先がよさそうだな?」
 クラウス様が私のほうを向いて、くすりと笑う。
「私も同じこと思っていました」
「なんだ。やっぱり俺たち、気が合うんだな」
 この状況で、そう思わないほうが少ないと思う。
「……そうかもしれませんね?」
 だけど、気分がいいから、そういうことにしてあげてもいいかな。なんて思ってクラウス様に笑いかけると、クラウス様の頬がほんのり赤くなった。……私、変なこと言った?
「……絶対に、なにがあっても、俺はこの想いを貫いてやる」
 クラウス様が俯いてなにかを呟いていたが、はっきりとは聞こえなかった。
 ――素直でいること、か。
 素直でいたら、破滅も回避できるだろうか。ティムの言葉を思い出しながら、私はそう思った。
 いよいよ、アトリアでの生活が始まる。どうかこの三か月間が、この青空のように穏やかなものでありますように……。

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