バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
アルコールで少し酔いがまわり、いつもより饒舌になっていたすみれは、思い切って犬飼と麗華に聞いた。

「あの・・・航君って大学生の時はどんな感じだったんですか?」

「うーん。そうねえ。」

麗華は赤ワインを口に含み終わると唇の両端を引き上げた。

「言っちゃおうかなあ?」

「おい。すみれに変なこと吹き込むなよ。」

アルコールで顔の赤くなった航が麗華を睨んだ。

「航といえばあれだろ。」

犬飼が得意げに話し出した。

「何日間続けてカレーを食えるかっていう競争を先輩としてたよな。」

「先輩の態度があまりにも横柄だったから、俺が勝ったら改めてくださいって言ってね。」

「結局10日続けて食った航が勝ったんだよな。」

「ああ。しばらくあの先輩、大人しくしてたっけ。たかだか歳がひとつ上なだけで後輩を見下すような輩は気に食わん。くだらない勝負だったが後悔はない。」

航は思い出したようにそう言うと、ビールを一口飲んだ。

「航君は今でもカレーが大好きです。でも二日続けて出すと文句を言います。」

すみれがそう言うと、犬飼と麗華は大きな声で笑った。

すみれは更に質問を続けた。

「大学時代の航君に彼女はいましたか?」

犬飼と麗華は顔を見合わせたあと、噴き出した。

「すみれちゃん、そんなことが気になるの?」

「いえ・・・なんとなく聞いてみたくなって・・・」

急に恥ずかしくなったすみれは俯いた。

「いたよなー。こいつ、学園のマドンナと付き合ってたんだぜ?な?航。」

犬飼は航の首に手を回し、にやにやと笑った。

「今更それがなんだ。そんな遠い昔のことは忘れたよ。」

航は憮然とした顔をした。

「けどこいつ、バイトとサークル活動の方を優先してばかりいて、早々に振られたんだよ。向こうから告ってきたのにさ。航、お前もったいないことしたな。」

「うるせえな。お前こそ、浮気して彼女に振られてただろ?」

「あれは浮気じゃありません。僕は女友達も大切にしていただけで・・・」

犬飼の声などまったく耳に入らなくなったすみれは、ショックを隠し切れずにいた。

やっぱり航君、彼女いたんだ。

そうだよね。

だって航君、格好いいもの。

キスとかしたんだろうな。

そしてそれ以上も・・・。

すみれは、胸のもやもやを鎮めるために、赤ワインを一口で飲み干した。

そんな態度をじっと麗華が観察していることに、すみれは気が付いていなかった。

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