バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
航からの旅立ち
大原を駅の改札まで送ったすみれは、帰りにスーパーで夕飯の買い物を済ませ家に戻った。

「ただいま。」

「お帰り。なんだ、早かったな。てっきり大原君と食事でもしてくるかと思ったのに。」

夕飯前なのに缶ビールを飲みながらソファで自堕落に寝そべる航を眺め、すみれは大きなため息をついた。

「航君、私がいなくなったら、毎日お酒とおつまみだけで夕飯を済ますつもり?」

「そうかもな。」

航はそう投げやりに言うと、テレビのチャンネルをザッピングした。

すみれが買って来た食材を冷蔵庫に入れていると、航の声が背中越しに聞こえた。

「大原君。真面目でいい子じゃないか。さすが俺の姪だ。見る目があるな。顔もそこらへんのアイドルよりも整ってるし。」

「そうだね。」

すみれはその言葉を複雑な気持ちで聞いていた。

「どうせなら早いとこ嫁にいってしまえ。その方がせいせいする。」

「そのことだけど。」

すみれが冷蔵庫の扉を乱暴に閉める音が響き渡った。

「私、近々この家を出て行くから。よかったね。せいせいするでしょ?」

航の顔が驚愕で歪んだ。

「おい。ちょっと待て。なにもそんなに急いで家を出て行くことないだろ?冗談を真に受けるんじゃない。」

「私、これ以上航君のお荷物になるのは嫌なの。私がいたら航君は結婚出来ないし、幸せになれない。それが嫌なの。そんな航君を見続けるのは辛いの。だから私はこの家を出るの。」

「どうしてそこで俺の結婚話が出てくるんだ。関係ないだろ?」

「じゃあ聞くけど、最近帰りが遅くなったよね?彼女が出来たんじゃないの?」

「勘違いするな。こんど塾がリニューアルするからその関係で仕事がたまってるんだよ。そんなことずっと気にしてたのか?」

「・・・とにかく私はこの家を出るから。もう決めたの。」

重たい空気が流れ、ふたりは沈黙した。

そしてその沈黙を破ったのは航だった。

「ごめん。悪かった。俺が言いすぎたよ。だから思い直してくれ。な?」

「・・・・・・。」

それでも押し黙るすみれに、航は怒りをこめて言葉を吐きだした。

「お前がなにを決めても勝手だが、俺は絶対に許さないからな。」

そう言い捨てて、リビングから出て行く航の背中を眺め、すみれはまたひとつため息をついた。

引き留めてくれるのはとても嬉しい。

でもその言葉に引きずられて、航君に甘えてこのままこの家に居続けることが正しいことなのだろうか。

すみれの心は右へ左へ大きく揺れ動いた。

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