バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
その後、航とすみれの関係はぎくしゃくした。

航はすみれとまともに会話もしなくなり、残業帰りに飲んで帰ってくることが増えた。

きっと私と顔を合わせたくないんだ。

話をしたくないんだ。

ここまで育ててもらって、勝手に家を出るなんて恩知らずもいいところだ。

航君は私に愛想をつかしてしまったのかもしれない。

家を出るなんて時期尚早だったのかもしれない。

もうしばらく航君の気持ちが落ち着くまで様子を見た方がいいのかもしれない。

すみれがそんな風に思い始めていた矢先、航がすみれに声を掛けた。

「すみれ。少し話をしようか。」

すみれと航はダイニングテーブルで向き合って座った。

航は照れ臭そうにすみれに微笑みかけた。

「あれから、ずっと俺なりにすみれの言ったことについて考えた。」

「・・・・・・。」

「俺は出来ればすみれが結婚するまでは、この家に住み続けて欲しいと思っている。女の子の一人暮らしは空き巣やストーカー被害や・・・もしかしたらおかしな人間が押し入ってくるかもしれない、危険がいっぱいで心配なことばかりだ。俺はすみれが心配なんだよ。それはわかってくれ。」

「うん。わかってる。」

「だが・・・お前ももう一人前の大人の女性だ。すみれがこの家を出て、自由になりたいと言う気持ちも理解出来なくもない。」

私が自由になりたいわけじゃない。

航君を自由にしてあげたいの。

そう言いたい気持ちを抑え込み、すみれは航の言葉をただ黙って聞いていた。

「今まで大人げない態度を取って悪かったな。」

「航君。私の方こそ勝手なことばかり言ってごめんなさい。」

泣きそうな顔をしたすみれに、航は励ますように言った。

「すみれ。お前の好きにしていいよ。」

「航君・・・。」

ごめん。

ごめんね、航君。

でも私、こうでもしないと航君のことを吹っ切ることが出来ないの。

いつまでも航君を追いかける小さな女の子のままでいるのは嫌なの。

「・・・ありがとう。」

すみれは背中を向けた航にただそれだけをつぶやいた。
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