ふたりぼっち

近くの席に座っている友達が興奮気味に言う。僕は「そうだね」と一言返し、引き出しの中から本を取り出した。図書室で借りた本、もうすぐ返却期限が迫ってるから早く読まなきゃ。

本のページを捲って物語の中に入り込もうとしていたのだが、僕はふと前を向いてしまう。それは自分の意思ではなく、まるで誰かに操られてしまったかのようだった。

斜め前にいる花澤さんを見てしまう。まるでテレビの中の芸能人のような見た目だから、他人に興味のない僕でもつい目で追ってしまうのだろう。そう思ってた。

（えっ……）

花澤さんの少しだけ見えた表情に、僕は釘付けになった。先ほどまでは綺麗な微笑みを浮かべていたその顔は、どこか寂しげなものに変わっている。でも美人という生き物は、どんな表情でも美人というのは本当のようだ。

（突然の転校で嫌なのか？）

何故か、その寂しげな横顔が僕の頭の中に強く焼き付いて離れなかった。



転校生ーーーそれも美人な転校生というのは話題を呼び、他のクラスの人たちだけじゃなく、他学年の先輩まで休み時間に花澤さんのことを見に来ていた。