初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 からっとした青空の日差しから逃れるかのように、鍔の大きな帽子をかぶって影を作る。
 ラベンダーを摘んでいるオネルヴァとエルシーに、日傘をさしてさらに影を作っているのは、ヘニーとリサである。
「おかあさま、これくらいでいいですか?」
「そうですね。これだけあれば十分ですね」
 エルシーの籠の中には、びっしりとラベンダーが入っていた。つい、夢中になって摘み取ってしまった。
 オネルヴァはエルシーと匂い袋を作ろうとしていた。だが、時期的にラベンダーが楽しめると庭師からも聞き、匂い袋ではなくラベンダースティックにしてはどうかとエルシーに提案した。
 すると彼女は、顔中に喜びの笑みを浮かべた。
 摘みたてのラベンダーは水分が多くて折れやすいため、一日程乾燥させてから作る。
「奥様、お嬢様。お茶の準備が整っております」
 摘んだラベンダーは、風通しのよい日陰に吊るした。それが終わったところで、ヘニーに声をかけられた。
「エルシー。喉がかわきましたね」
「はい」
 元気よく返事をするエルシーに微笑んでみるが、やはりイグナーツとよく似ている。父と娘ではなく、伯父と姪であると知ってから十日程過ぎた。だからといって、何かが変わったわけでもない。
「おかあさま」
 唇の端に、ケーキのクリームをつけながらも、エルシーは真剣な顔でオネルヴァを見つめていた。
「どうしました? 何か、悩み事でも?」
「やっぱり、おとうさまとおかあさまは、結婚式をしたほうがいいと思うのです」
「急にどうしました?」
 オネルヴァが腕を伸ばして、エルシーの口の端のクリームをぬぐう。
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