初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「おとうさまとおかあさまがきちんと結婚式をすれば、二人の間に赤ちゃんが生まれて、エルシーはおねえさまになれると思うのです。結婚式をしないから、赤ちゃんが生まれないのです」
 彼女の口ぶりから察するに、エルシーなりに一生懸命考えて伝えようとした気持ちが伝わってくる。
 オネルヴァはそれにどうやって答えたらいいのかがわからない。
 エルシーが妹か弟を欲しがっているのは、今までの言動からもなんとなく察していた。だが、その言葉ときちんと向き合わず、曖昧なやりとりで逃げていたのも事実。
「そうですね。ですが、子は授かり者ですから、望んでもすぐに生まれるわけでもないのですよ?」
 オネルヴァがやんわりと答えると、エルシーはきょとんと目をまんまるくしている。
「結婚したら、赤ちゃんは生まれるわけではないのですか?」
 どうやら彼女はそう思っていたらしい。だから、すぐに弟妹ができると思っていたのだろう。
 オネルヴァは言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。エルシーは真面目な顔でオネルヴァの話を聞いていたが、彼女の結論は「エルシーもおねえさまになれるように、お勉強がんばります」だった。
 純粋なエルシーにこれ以上の現実を突きつけるのは気が引ける。
「そうですね」
 にこやかに笑って誤魔化した。
 そもそもオネルヴァはエルシーの母親として求められているが、イグナーツの妻としては求められていない。そんな彼との間に子が授かるとは思えないのだ。
 イグナーツとは口づけをする関係になった。しかしそれも一種の治療行為であり、あのときのみの行為である。そういった愛情を確かめるための行為ではない。
 エルシーには悪いが、彼女の弟妹を授かることはない。
 そう思っただけで、胸がキリッと痛み目頭が熱くなった。

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