初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「ただいま帰った」
 王都にある別邸では、娘のエルシーが使用人たちに囲まれて暮らしている。
 娘をおいて長期間不在にするのには不安があったが、彼女を理由に仕事を疎かにするわけにもいかない。それに、使用人たちは長くイグナーツに仕えており、信用できる者たちだ。
「お父さま、おかえりなさいませ」
 フリルのついた薄紅色のドレスに身を包んだエルシーが、パタパタと駆け寄ってきた。二つに結わえているふわふわと輝く金色の髪は、イグナーツのくたびれた灰色の髪とは似ても似つかない。彼女の髪は母親の血を受け継いだものである。ただ茶色の大きな目だけは、プレンバリ家の特徴といえるだろう。
「ただいま。元気にしていたか、エルシー」
「はい。エルシーは、おりこうにしていました」
「旦那様。エルシーお嬢様は、字が書けるようになられたのですよ」
 先代から仕えている執事のパトリックの口調は、まるで我が子を自慢するかのようである。
「そうか……」
 なぜか悔しい。イグナーツの知らないことをパトリックが知っているのが悔しい。
「エルシーは、お父さまにお手紙を書きました」
 もじもじと身体をくねらせながら、恥ずかしそうにイグナーツの前に手紙を差し出した。
< 15 / 246 >

この作品をシェア

pagetop