初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 イグナーツはふるふると手を震わせながらそれを受け取ると、パトリックに向かって勝ち誇った笑みを浮かべる。
「エルシー。着替えてくる。夕食は一緒にとろう」
「はい」
 エルシーは顔中に笑みを浮かべて大きく返事をした。
 イグナーツが私室に戻ろうとすれば、侍女がエルシーの手を引いて、別室に連れて行こうとしていた。もしかしたら、食事のために着替えをするのかもしれない。今のドレスも似合っていたが、次はどのような格好を見せてくれるのか。
 心の中でニヤニヤとしていたが、イグナーツはパトリックに伝えるべき内容を思い出す。
「パトリック、俺の部屋に……」
 優秀な執事は、黙って指示に従う。
 懐かしい私室に足を踏み入れたイグナーツは、エルシーからもらった手紙を机の上におくと、軍服の首元を緩めた。やっと息をつけた感じがする。
 上着をパトリックに預け、着替えを受け取る。
 着替えを終えたイグナーツは、ソファにどさりと身体を埋もれさせた。
「お茶を準備いたします」
 軍服を丁寧に吊るし終えたパトリックは、すぐにティーセットのワゴンを運び入れた。
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