初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 だから、愛のないオネルヴァとイグナーツの形だけの結婚では、子を授かることはないと思い、エルシーに曖昧に答えていたのだ。
「あの……子を授かる行為とは……」
 オネルヴァの問いに、イグナーツはまた困ったように眉根を寄せた。
「そうか……。君は知らないのか……」
「申し訳ありません」
「いや、謝るべきものではない。ただ、いきなり実践というのは、いかがなものだろうか……」
「だ、大丈夫です。その……旦那様が教えてくだされば……」
 イグナーツは、軽くコホンと咳ばらいをした。
「君は、たまに大胆なことを口走るな。いや、知らないから、なのか?」
「え、と……。それはどういった……?」
 この部屋には二人きりであるにもかかわらず、イグナーツは彼女の耳に唇を近づけ、簡単に説明した。
「つまり、旦那様とわたくしの身体をつなげると? そういった場所があると?」
「そういうことだ」
 彼の言葉を信じるのであれば、子を授かるためには必要な行為のようだ。
 だがそれを知らなかったオネルヴァは、もちろんそのような行為に及んだことはない。
「よ、よろしくお願いします……初めてですので、至らない点も多々あるかと思いますが……」
「君のそういった真面目なところも、愛らしい。俺にまかせてほしい……」
 彼は身体を起こすと、オネルヴァの身体をまたぐようにして腰の両脇あたりに膝をついた。
 両頬は彼の大きな手によって包まれる。そのまま顔が近づいてきて、唇が重なろうとした瞬間、彼が言葉を放つ。
「これは……俺の魔力を無効化するための治癒行為ではない……。君を、愛するための行為だ」
「は、はい……」

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