初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「そんなことはないよ、きちんと手続きをすれば大丈夫だ。だから、未来の花嫁。十年後に迎えにくるとしよう」
「駄目だ」
 アルヴィドの言葉に反対の声をあげたのは、もちろんイグナーツである。
「エルシーとアルヴィド殿では、年が離れすぎている」
 コホンと可愛らしい咳払いが聞こえる。
「旦那様……。その、年齢差については、わたくしたちも人のことを言えませんので……」
 オネルヴァの言う通りである。オネルヴァとイグナーツでは十九歳も年が離れている。そしてエルシーとアルヴィドも同じくらい年が離れている。
 イグナーツは悔しそうに顔をしかめた。そのまま何かを考え込んでいるようだが。
「十年後。エルシーの気持ちが変わらなかったら、考えてやってもいい……」
 ぎりぎりと唇をかみしめながら、イグナーツはやっとの思いでその言葉を吐き出した。
「あら」
 オネルヴァの声に、イグナーツがぴくっと身体を震わせる。
「今、動きました。きっと未来のお義兄様が決まって、喜んでいるのね」
 その言葉に、イグナーツが眉間に深くしわを刻む。
「アルお兄さま。おろしてください。エルシーもお母さまのお腹、触りたいです」
「わかったよ、エルシー。十年後を楽しみにしているからね」
 アルヴィドは、ちゅっとエルシーの頬に唇を寄せてから、彼女をおろした。
 もちろん、それを目撃してしまったイグナーツは、鬼のような形相をしていたのだった。

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