初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「出会ったばかりでオネルヴァ様が不安に思われるのもわかります。私がまだ信用されていないことも。ですが、私は旦那様の屋敷に仕えて三十年以上。このたび、オネルヴァ様付きとして、仕えることになりました」
 オネルヴァを落ち着けるような柔らかな笑みを浮かべている。
 彼女が悪くないことも、オネルヴァはわかっている。これはオネルヴァの問題なのだ。
「あの……。ここで見たことは誰にも言わないと、約束してくださいますか?」
 オネルヴァが尋ねると、ヘニーは驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。
「約束いたします。私はオネルヴァ様から信頼されるのが仕事でございますから」
 ヘニーは笑うと口元に皺ができる。それを見た時に、なぜか心がふわっと凪いだ。
 ヘニーの手伝いを受けながら、浅紫色のドレスを脱ぐ。コルセットも外され、背中が露わになったとき、ヘニーが息を呑んだのがわかった。だが、彼女はすぐに何事もなかったかのように、手を動かす。
「こちらを身に着けてください」
 身体を絞めつけないデザインの淡い珊瑚色のドレスであった。
「あとは、お休みになるだけですから」
 オネルヴァが今まで着ていたドレスは、麻袋に入れられキシュアスに返されるとのことだった。
 ゼセールについて勉強したつもりだったが、この輿入れについての伝統は知らなかった。
 食事もヘニーが用意してくれた。このテントの中には、オネルヴァとヘニーしかいない。だが、周囲にはオネルヴァの身を守る護衛がいるのだろう。
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