初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
◇◆◇◆ ◇◆◇◆

 オネルヴァはもう少しイグナーツと話をすべきだろうとは思っていた。
 この屋敷に迎え入れられたが、ここまで待遇がよいと、変に疑ってしまう。そうやってなんでもかんでも疑うのはよくないとわかっているのだが、まだ、どことなく他人が信じられない。
 むしろ、イグナーツという男性がよくわからない。
 ただエルシーは別だった。駆け引きとは無縁の無垢な子どもである。彼女の言葉で心が揺れ動き、感情の起伏すら激しくなる。
 思い出すと、頬が熱を帯びた。
 ここに来たその日のうちに、イグナーツとエルシーに涙を見せてしまった。彼らはきっと驚いたことだろう。
 オネルヴァは、ケーキとお茶を乗せたワゴンを手にしていた。
 扉を叩く。
「どうぞ」
 低くゆったりとした声が、扉の向こう側から聞こえてきた。この声は、オネルヴァの心を落ち着かせてくれるから不思議である。
「オネルヴァです、失礼します」
 オネルヴァが部屋を訪れたことに、彼は驚いた様子だった。
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