初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
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 軍事施設は王城敷地内にある。
 将軍であるイグナーツの執務室は、司令部と呼ばれる建物内にある。訓練場と呼ばれる中庭と小さな建物を挟んだ向かい側にある建物は本部と呼ばれており、下位の階級の者たちが常駐している。
 どちらも白亜の外壁の王城とは異なり、のっそりと重みのある焦げ茶の角ばった建物である。
 イグナーツ率いる北軍は、王都に常駐している者と、北の関所付近に常駐している者と二つに分けられる。北の国境を見張り、入国手続きなどを行っているのも北軍の役割であるからだ。そのため、イグナーツは王都と国境を行ったりきたりするのが多い。
 休暇中もちょくちょくと王城に足を運んでいたイグナーツであるが、軍の司令部に来たのはキシュアスから戻ってきた日以降であった。
 懐かしい感じのする執務席にゆったりと腰を落ち着ける。壁を背にして黒紅のでっぷりとした机が置いてあるのは、外から背後を狙われないようにするためだ。
 外光を取り入れる小さな窓は、座って左側の高い位置に配置されている。右利きのイグナーツにとっては、手の影が邪魔にならずに文字が書けるため、都合がいい。
「俺が不在の間、ご苦労だったな」
 イグナーツがそう声をかけた相手は、柔和な笑みを浮かべているミラーンである。オネルヴァの迎えを彼に頼んだのも、自身が留守の間に北軍を任せたのも、イグナーツがすべてにおいて信頼を寄せている人物だからだ。
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