初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「キシュアスから手紙が届いております。先に、私のほうで内容を確認いたしましたが、急ぎの案件ではないと判断したものです」
「ああ、助かる」
 そうは言ってみたものの、目の前の書類の束にはげんなりとしていた。期日に余裕のある案件がこんもりと置かれている。
「閣下。今日はこちらの確認だけで終わりそうですね」
 確信犯であるかのように、ミラーンはハハッと笑った。
 司令部の会議に顔を出せば、東軍、西軍、南軍の幹部たちは口元をニヤニヤと緩めているし、とにかく居心地の悪い場所でもあった。
 会議が終われば、また執務室で山のような書類を確認する。
 イグナーツとしては、時間を見つけて訓練場の様子を見に行きたかった。だが、目の前の書類を目にすれば、それは無理であろうという現実をつきつけられ、鬱々とする。
 将軍という立場は、身体を動かすよりも頭を使う仕事が主だ。軍の一つを束ね、まとめあげるのだから仕方ないともいえよう。
 復帰初日は、ほとんどが書類仕事で終わってしまった。会議以外は、ずっと執務席に座りっぱなしである。
 イグナーツに不満がたまっているのは、ミラーンも気がついたようだ。たまに何か言いたそうに口を開きかけるが、そこから言葉が出てくることはなかった。イグナーツが書類仕事をためこんでいたというのであれば、その後、その書類はミラーンの処理を必要とするからだ。つまり、ミラーンもイグナーツ同様に忙しい。
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