れんれんと恋するための30日


拓巳は、漫研に入った日のことをよく覚えていた。
いや、今でも鮮明に覚えている。
幸の笑顔に一目ぼれしたあの日ことを…

幸は、物静かな女の子だった。
変わった人間が多い漫画研究部で、皆のギャグやジョークを控えめにクスクスと笑う幸を拓巳はいつも見ていた。

一年生の夏休みに恒例の漫研の合宿があった時、拓巳は幸とたくさん話をした。
その年の一年生は、拓巳と幸を含めて四人しかいなかったため、その四人はあっという間に仲良くなった。

女子が少ない部活のため、漫画を描く以外に雑用を頼まれる事が多かった幸は、いつも笑顔で淡々と仕事をこなした。
拓巳は、そんな幸から目を離すことができなかった。


「漫画に貝殻を描きたいから、そこの海で適当に拾ってきて」


合宿地が海の近くだったせいで、一年生はそんな用事を頼まれた。誰も動かない中、幸は海へ行く準備をする。


「幸、俺も付き合うよ」


幸は振り返り、拓巳を見た。


「ありがとう」
 

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