れんれんと恋するための30日


幸は穏やかにそう言うと、一緒に並んだ拓巳を見上げた。


「拓巳は、なんで漫研に入ったの?」


「漫画を描くのが好きだから…」


「そうだよね~」


幸は、フフッと笑った。


「本当は、この学校に入った理由は漫研部があったから。
俺、実は、中学は引きこもってたんだ」


真夏の日差しが拓巳の頑なな心を溶かしてしまったのか、幸にこんな恥ずかしい話をしている自分が信じられなかった。
でも、幸はうんうんと話を聞いている。


「漫画が救ってくれたんだね」


幸のその一言は、拓巳の全てを変えた。
ほんのり抱いていた幸への恋心は、本物の愛情へと変わる。
その幸の何気ない一言は、拓巳のこれまで人生の全てを一瞬で癒してくれた。

でも、今は…
今、目の前にいる幸はまるで別人のようだ。
拓巳は、人一倍戸惑っていた。
この高校に入って幸を知ってから、ずっと幸を見てきたから。

そして、今でも、拓巳はずっと幸を見ている…


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