れんれんと恋するための30日


そんな道は、幸のここ最近の変化に興味を持っている。
明らかに人格が違うことは、もう分かっている。
芸術家の友人が多い道にとって珍しいことではなかったが、幸の人格がどこへ消えたのか、それが知りたかった。


「ねえ、この作品をコンクールに出すんだっけ?」


こうやって、幸らしくない事を普通に聞いてくる。


「そうだよ、もう、忘れた?」


道は優しく、そして鋭く幸を追い込む。


「ううん、忘れてないよ」


幸はそう言うと、背筋を伸ばし子供のような瞳で、道の滑らかに動く指先を見ている。


「幸、今日はバイトは?」


「夕方の四時から入ってる」


「あいつは?」


「れんれん?」


「そう」


「今日と明日は、多分、透子さんとデートだと思う」


道は手を止めて幸を見た。


「幸は、いつから大石蓮を好きだったの?
僕はそう言う話を一度も聞いた事はないし、この間まで、16年間好きな人はいないなんて言ってたじゃん?」


道は母親が子供をあやすような優しい顔で幸に聞いた。



< 71 / 191 >

この作品をシェア

pagetop