れんれんと恋するための30日
そんな道は、幸のここ最近の変化に興味を持っている。
明らかに人格が違うことは、もう分かっている。
芸術家の友人が多い道にとって珍しいことではなかったが、幸の人格がどこへ消えたのか、それが知りたかった。
「ねえ、この作品をコンクールに出すんだっけ?」
こうやって、幸らしくない事を普通に聞いてくる。
「そうだよ、もう、忘れた?」
道は優しく、そして鋭く幸を追い込む。
「ううん、忘れてないよ」
幸はそう言うと、背筋を伸ばし子供のような瞳で、道の滑らかに動く指先を見ている。
「幸、今日はバイトは?」
「夕方の四時から入ってる」
「あいつは?」
「れんれん?」
「そう」
「今日と明日は、多分、透子さんとデートだと思う」
道は手を止めて幸を見た。
「幸は、いつから大石蓮を好きだったの?
僕はそう言う話を一度も聞いた事はないし、この間まで、16年間好きな人はいないなんて言ってたじゃん?」
道は母親が子供をあやすような優しい顔で幸に聞いた。