れんれんと恋するための30日
この言葉は、大好きな妹を思う幸の本心だった。
この世界で福に辛い思いだけはさせたくない。
幸は福が泣ているのをずっと感じていた。
幸の手のひらに、福の涙のしずくが落ちてきているような感覚が何度もあった。
「分からないけど、でも、きっと、何かの罰があるのは間違いない。
神様はとても優しくて慈悲深い方だけど、約束を破る事は大嫌いだから」
幸は嫌な予感がしていた。
それを口に出すことさえ、怖くてできないほどに。
福は拓巳と朝のジョギングをしている。
高校の体育祭は、もう三日後に迫っていた。
毎朝、福は拓巳とこのグランドを走る事がとても楽しかった。
そして、拓巳に意外な一面があることにも驚いた。
拓巳は、相当足が速い。
昨日、野球部員と冗談でかけっこをした拓巳は、遊び半分とはいえ、それでもずば抜けて一番だった。
福は拓巳は文系の草食男子と思っていたけれど、拓巳の走る姿はどこの部活の男子よりもかっこいい。
幸はこの拓巳の姿を見ているのかな…
福は、いつもどんな時も、拓巳の姿を目で追った。
きっと、幸もこの目を通して拓巳を見てるはずだから。
そんな拓巳の控えめな笑顔は、とてもキュートでまぶしかった。