君と笑い合えるとき
知ってるかな,とどきどきしてしまう。

同じ中学校,私と静流くんのペアのことは,度々目や口や耳,全てで注目,伝達されていた。

でも,そんなことには一等疎い文くんは,クラスメートになった頃,そんなこと少しも知らなくて。

今目の前で静流くんを見た文くんはどんな反応をするだろうって,私はそっと成り行きを見守った。



「すみません,近くにいるなとは思ったんですけど……間宮さんの連れとは思わなくて……」



文くんらしい,純粋で素直な感想。

その正しい反応にも,私が胸を痛めることはない。

静流くんを見上げる文くんは,隣の席だった頃と何も変わっていなかった。

それだけが,今は自分でも驚くほどただ嬉しい。

文くんが,特に反応のない静流くんをじっと見つめる。



「でもやっぱり,ごめんなさい。一瞬だけ,間宮さん借りてもいいですか?」



上下した喉から,躊躇いがちに音が漏れた。

その様子を見ていた私は驚いてしまう。

そこまでして,話したいと思って貰えるほどだとは,思っていなかったから。

暑い夏のなか,久しぶりの級友に遭遇することは,とても新鮮なイベントなのかもしれない。

静流くんで一杯な私には,少し薄目の感情だけど。

私もまた,懐かしさを感じないほどじゃない。
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