君と笑い合えるとき
「だめ,だめだよ」



短くも,はっきりと。

2度も笑顔で,だめと答えた静流くん。

思わず私は首を上げて,文くんがまた見つめ続けた。



「大人げないと言われても,まあ仕方ないよ。でも,きこを連れてくのは,だめ」



どうしてだろう。

ただ静流くんを中心に考える私と違って,文くんは説得を試みる。



「……2分でいいです」

「うん,だめだね─」

「静流くん」



丁度いい位置にある袖を,くいっと引く。

染み付いた癖のようにして,私の呼び掛けに静流くんが向いた。



「私,たった2分じゃ迷子になんてなれないよ」



まさかそんなに信用がないとは,流石の私も思わなくて。

心外だと数ミリの信じられない気持ちと,驚きと。

戸惑いが瞳に乗り,細い声に現れる。

真っ直ぐに私を映した静流くんも,同じく言葉にならない様子で惑っていた。



「2分でいいの? 文くん。それに私,他の皆がどうとか,分かんないよ」

「う,おう。俺は結構知ってるよ」



そっかって。

他にどういっていいか分からなくて,返す。

このまま久しぶりの再開に浸っても,私はきっと同じような態度なんだろう。

皆の近況もしらないし,改めて話すようなことも思い付かない。

それでも文くんは構わないと私を分かってくれるから。

断られても食い下がる文くんが不思議で,どうしてか聞いてあげたくて。

静流くんは待っててくれるだろうと思いながら,私は文くんの手を引いた。



「静流くん,ちょっとだけ待っててね」

「ちょっ……き」


丁度早歩きでやって来た男の人が危なくて,避けるついでに前に出た私。

振り向きながら,何かあったら連絡するよとスマホを掲げる。

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