君と笑い合えるとき
こくんと,落ち着けるように唾が喉に流れ落ちた。

付き合ってください。

真っ白だった映像が,そう言われたことを思い出し,映す。

時間稼ぎのように絡めた両手の指が,じんわりと湿っていた。



「ごめん,なさい」



ようやく紡いだ言葉に,時間が止まったように感じる。

途端に苦しくなった呼吸が,緊張で吹き出す汗を誘った。

たとえ叶わない願いでも。

たとえ,叶わない……恋だったとしても。

ずっと一緒に生きてきたこの気持ちを,まだ手離す気にはなれない。

こんな素敵な瞬間が,もう2度と無いと。

自分の器量に誰より知っていながらも。

私はまだ,静流くんを好きでいたかった。

ごめんなさい。

2度も口にする気はない。

私は自分の胸の中でだけ,ゆっくり染み落とす。

怖くて,申し訳なくて。

今だってきっと……いつだって迎えてくれた瞳を,今は見ることが出来ない。

顔を,あげることはできない。
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