君と笑い合えるとき
考え,受け入れるように息を吐く文くん。

聞こえるその息に,私は少しだけ,安心してしまった。

それがひどいことだと,後になって後悔した私は。

いつか静流くんと同じで,反対の状況になったと仮定した時,こんな風に感じて欲しくないと反省する。



「可能性は,少しもない? 考えてくれるなら,何度でも会いに行くし,連絡だって取り合いたい。どれだけかかっても,俺,間宮さんのこと多分ずっと好きだよ」



私は驚いて,顔をあげた。

好きになって貰えるよう努力して,どれだけだって待ち続ける。

曲がることを知らない文くんは,驚くことなんてなにもない。

振り向かせるんじゃなく,振り向いてくれるまで待っているんだと。

いつだって変わらない文くんのまま,私を好きだと言っていた。



「──私」



好きな人がいるの。

最初に口にしようとした時,どこか逃げるようなニュアンスを含んでいると気づいて,1度飲み込む。

そんな私の戸惑いに気付いた文くんが,優しく心配そうな色を見せて。

私は覚悟を決めた。

誰にも明かしたことのない気持ちだったけど,ずっと私の心の中だけの住民だったけど。

ただ,私の本心として,口にする。



「私……好きな人がいるの」



手を当てなくても分かる熱い息が,自分から漏れていった。

全てを取り戻すように,数秒後。

ばくばくと,心臓が大きく主張する。

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