君と笑い合えるとき
本当に目の前だった石段の下,数段上がった私を文くんが見上げる。

ここでお別れと気付いた私も振り返った。



「……きっと,かなうよ」



本当に小さな言葉だったけど。

その優しいエールの意味も言葉も,しっかり耳に,心にした私は。

ダッと駆け出してしまった文くんが,目元を拭っているような気がしても。

目を閉じて,見なかったことにする。

そうして文くんは,私にありがとうもごめんねも言わせないまま自慢の足で駆け去ってしまった。

登った先の神社も,周りは全て森で。

知らなきゃ気付かないほど真っ暗な空間は,もの寂しさを感じさせる。

だれもいない。

本当に,誰も。

私は賽銭をなげて,がらがらはならさず。

ちょっと場所かしてくださいと頭を下げた。

賽銭箱の斜め前で,ほうと息を吐く。

晴れた夏空の星は,綺麗に瞬いていた。

ハンカチ持っててよかった,と。

私はお尻の下のハンカチをなぞる。

そして自分の空いた両手に違和感を感じた。
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