君と笑い合えるとき
あれ……私の,スマホは……????

浴衣に合わせたかごの巾着を漁ってみても,見つからない。

記憶にあるスマホの最後は,静流くんに掲げたところで止まっていた。

さっと引いていく顔の温度。

こんなところに座ってちゃいけないと,転びそうになりながら階段を目指した。

たった3歩駆け降りたとき,素早く走り通る必死な横顔を見る。

その綺麗で見慣れた横顔は,足元の石段に気付いて。

驚いたように私を見上げた。



「しずっ」

「きこ……!」



心配そうな,切実さを込めた声。

そんな風に呼ばれたらと,場違いにもときめいてしまう。

その手に,私のスマホの存在を確認して。

私はあっと小さく声をあげた。

静流くんを心配にさせたのは,あれを見つけてしまったのもあったんだろう。

待っててって,言ったのにな,なんて。

あの後,静流くんは追いかけてくれていたんだって,私は気がついた。

もしかしたら,石段の前を通るのも,1度ではないのかもしれない。
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