君と笑い合えるとき
ちょっと待ってと石段を下りようとすれば,危ないから僕がいくと駆け上がってくる。

あっという間に目の前に来た静流くんは,私を抱えあげて安定した砂の上に下ろすと……

私をぎゅっと抱き締めた。

どんなに探してくれたんだろう。

息が荒くて,心臓もバクバクと動いている。

爽やかで多量な汗に濃縮された静流くんの匂いが,鼻を掠めるのを感じながら



「ごめんね」



と謝った。

静流くんは,珍しく



「許さないよ」



と声を震わせて答える。

今までにない返答に,私は困ってしまった。

私が悪いのは百も承知だけど,その上でどうしたら許して貰えるのか。

自分の持つものの少なさに,思い付くものがない。



「ごめんね」



ともう一度。

私は静流くんの胸板をそっと押す。

これ以上抱き締められていると,どきどきが爆発して。

むずむずとした妙な気分に堪えきれないと思ったから。

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