君と笑い合えるとき
「ねぇきこ,僕が優しいのは,何でだと思う?」

「? りゆうなんてあるの?」



もう怒ってないよって。

口にされなくても勝手に許された気になってしまうのは。

静流くんの私を扱う動きや声が,いつも通り甘やかすような甘さを含んでいるから。



「……人に物に事,それらに大して執着がないから。きこさえ取り上げないでくれるなら,何だって譲り渡せてしまうから」



1度は私の頬を撫でた手が,今度は私の髪の毛をくるくると弄ぶ。

私は,どんな反応をしたらいいのか分からず,静流くんの瞳の中で困った顔をしていた。

静流くんの全てが,中心が。

まるで私のように聞こえて,戸惑ったのだった。

期待しては,後が怖い。

それくらい時間をかけて膨れ上がった,たった1つの私の気持ち。

そんな私をじっくりと観察するように眺める静流くんは,自分が口にしたことなんて全く気にしていなくて。

寧ろ,良い機会だから聞かせてやろうくらいの柔らかい微笑みで。

まだ静流くんのターンなんだと知らしめられる。
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